「楽しそうな顔をして彫っていますね」
店で彫刻しているのをご覧になったお客様から、そのように声をかけられることが、よくあります。
確かに、はんこを彫っているときがいちばん幸せかもしれません。
彫刻にとりかかる前、まっさらなはんこをじっと見て「さて、どんな【表情】に仕上げようか」と、ワクワクしながら、構想を膨らませます。
そして少しずつ彫り進めるうちに、文字の中に【表情】がうっすらと浮かび上がってきます。どんどん鮮やかになる文字の輪郭を見るのが楽しくて、ついつい夢中で彫り込んでしまいます。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、やがて完成。頭に描いていた通りの【表情】を持つはんこが誕生したとき、何とも言えぬ清々しい気持ちに包まれます。
あとは実際にお使いいただくお客様にバトンタッチです。長い年月ご愛用いただくうちに深い味わいが染みこみ、いつしか、より優しげな表情を見せてくれることでしょう。
私が生み出した「はんこ」という作品が、お客様の人生をほんの少しでも豊かに彩ることができたら、作り手として、こんなに幸せなことはありません。
そんな光景を想像するだけで、つい頬が緩んでしまうのです。